心理学的観点から「なぜ人類は戦争を止められないのか」を解き明かす

一昨年お亡くなりになった日本の著名な精神科医(専門は精神病理学)である中井久夫氏(1934年 - 2022年)の本『中井久夫集8 統合失調症とトラウマ』に興味深いことが書かれていた。戦争と心理に関する本は何冊か読んだが、その中でもこれはまさにその通りだと合点が来たので紹介させていただきたい。

それは、端的に言うと戦争をするのは簡単で単純で、結果が早くてかっこいい。一方、平和や外交は時間がかかるし、頭を使うしすぐに結果が出ないから手柄にはならなくかっこ悪い。だから指導層も戦争の準備をした方が楽だし、民衆にもわかりやすい。でも実はこれは全部見せかけで、1カ月もたてばメッキがはがれて現実を見ることになる。戦争がもし始まったら戦争批判はブーイングを招くのでギリギリ今ならまだ言ってもいいのかなと思って言っています。そのうち言えなくなってしまう前に。

戦争も実は単純ではない。米軍のデータによれば、敵と味方全員が確実に相手を殺す手段を行使していたら、死者も非常に少なく戦闘はもっと早く終わるのだそうです。しかしあるところで一方が逃げ出す。ところが背中を見せると途端に殺しやすくなるのだそうで、大量の虐殺は逃げる軍隊に対して起こる。そして勝ったとしても、勝った瞬間というのは過度の緊張状態が解けるので、善悪感覚の麻痺がおこり、略奪・虐殺・レイプが起こるそうです。そしてもう一つ、イメージと違うのは、本当の戦争は戦記物と違って、たいていは長い行軍であるとか休憩であるとか塹壕の中にもぐっているとか、狭い戦車の中にうずくまってのろのろ行くとか、そういう退屈で苦しい時間が90%以上ということです。

 こんなはずじゃ無かったと開戦1か月後に気づいても、だれも言い出せないし、認めたくないし、勝つまでやめられないギャンブル依存症者のような心境であったり、早く終わらないかなあという心境だそうです。

評論家で医学博士でもある故・加藤周一氏も2005年「九条の会」の講演会で、「戦争の準備をすれば、戦争になる確率が大きい。平和を望むなら戦争を準備せよじゃあない。戦争の準備ではなく平和を準備した方がいい。戦争の準備((注)日本では防衛という)は容易に本当の戦争の方に近づいていく。非常に早く強く」と述べている(※引用 “戦争の準備ではなく、平和の準備を”/評論家 故・加藤周一さんの発言 各界に響く切実感 (jcp.or.jp))。

これを書いていて思ったが、戦争についてなるほど的確な指摘だなと思える文章を書いている方は、近年亡くなっている、という現実だった。何としても語り継いでいきたい。

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